知る・学ぶ

地球で起こることはすべてつながっている~危機的な生物多様性を守るために【アースデイ東京2018トークレポート】

アースデイ東京の楽しみ方はライブや出展だけではありません。2日間にわたって、さまざまなテーマでトークが行われています。今回は4月21日、22日に開催されたオフィシャルトークテントでのプログラムから一部を紹介。初日のオフィシャルテントで行われたトークでは、日本環境教育フォーラム理事長の川嶋直さんが進行役となり、アースデイ東京実行委員長C.W.ニコルさん、環境省 環境事務次官の森本英香さんが、いまなぜ生物多様性が大切と言われているのか、そしてアースデイ東京の可能性について語ってくれました。

【テーマ】

「アースデイで考える話してみる 新しい“環境”“自然”からの持続可能な未来」

【ゲスト】

 森本英香(環境省 環境事務次官)

 C.W.ニコル(アースデイ東京実行委員長/アファンの森財団理事長)

 川嶋直(日本環境教育フォーラム理事長/アースデイ東京理事)

※この記事は当日のトーク内容を一部編集したものです

 

●地球で起こることは、すべてつながっている

 川嶋:こんにちは、川嶋です。今日の進行を務めます。お話していただくのは、環境省・環境事務次官の森本英香さんです。そして、アースデイ東京実行委員長でもあるC.W.ニコルさんです。

 みなさんご存知だと思いますが、ニコルさんはアースデイ東京の実行委員長を今年で18年間やり続けています。森本さんは、以前にアースデイのイベントに来たことがあるそうですね。

 

森本:はい。もう20年以上前なので、まだニコルさんが実行委員長になる前に来たことがあります。

 

川嶋:久しぶりに来て、どんな感じを受けたでしょうか?

 

森本:同じところと変わったところがありますが、変わったところとしてはものすごく多様性があること。それから、地域で根強くナリワイを現実にしてきている方がたくさんいらして、すごく元気がいっぱいあるという印象です。

 

 

ニコル:私が日本の環境庁(現・環境省)の人と初めて出会ったのは、1974年に岡山県の水島製油所での重油流失事故のときでした。当時、僕はカナダ政府環境庁の環境保護局で西海岸担当のエマージェンシーオフィサーだったんです。

 

森本:油や化学薬品の流出などの非常事態に対応する仕事ですね。

 

ニコル:カナダでも、バンクーバー島とアメリカの間を石油タンカーが通ろうとしていて、瀬戸内海と環境が似ているところがあるので、水島での事故を聞いてすぐに駆けつけたいと希望しました。3週間ほど現場にいたんです。そのレポートを書いたことで、カナダでは大型タンカーは通れなくなりました。

 どうしてこの話をしたかというと、世の中は全部つながっているんですよ。日本で起こっていること、カナダで起こっていること、すべて地球では関係している。

 

森本:海もそうだし、大気もそうですよね。温暖化の問題なんか、まさにそうです。

 

ニコル:その通りです。

 

●環境省の森里川海プロジェクト

川嶋:いま、ニコルさんがつながっているという話をしましたけど、海もつながっているけど、海の手前の川も、そのまわりの里も、その元の森も全部つながっているよということで、環境省では「つなげよう、支えよう 森里川海」プロジェクトというのを3年くらい前に始めたんですよね。このプロジェクトは、ひと言で説明するとどういうものでしょうか。

 

森本:日本の、とくに江戸時代なんかを考えていただくと分かると思うのですが、山があって、川があって、人里があって、海があって、その循環があったことで成り立っていました。いまでも知床とかがそうですね。鮭が川を遡上して、「ほっちゃれ鮭」になって、あるいは死んで栄養になって、また森が豊かになって、その森の栄養が海にいくという循環がある。それで世界遺産にも認定されました。そういう社会をもう一度日本に戻したいという運動です。

 

川嶋:『森里川海大好き!』という読本もあって、環境省のサイトからダウンロードもできます。ニコルさんは、この4つのなかでいうと森に住んでいますね。今日も、アースデイ東京のブースでシェフの格好をしてソーセージを売っていました。

 

ニコル:あれは鹿肉のソーセージです。鹿肉を捨てる国は日本だけ。ニホンジカ一頭で、僕は100人分の料理をつくることができる。エゾジカだったら130人分くらいです。日本に来て56年ですけど、大好きな言葉は「いただきます」と「もったいない」。本当にもったいないから、森からの恵みをちゃんといただくようにしようと言っているんです。僕は反対運動は嫌いです。「やろうぜ」という運動は好きです。だから、今日もシェフをやっています。

 

川嶋:森里川海というときに、生物多様性というキーワードが使われたりします。「生物っていうのは多様だろう」と思わなくもないのですが、生物多様性が大事なのだと国際社会がこれほど言い続けているのはどうしてなのでしょうか?

 

森本:その生物多様性がどんどん失われていっているからです。ニコルさんの活動というのは、絶滅しそうな動物がちゃんと生きていける環境をつくることですけど、世界全体では絶滅速度はどんどん早まっている。ほかの生物や植物がいるからこそ人間も生きていけるのに、それが単純化されていくと人間の生存そのものも脅かされます。それで1992年に生物多様性条約ができたわけですが、条約ができて以降も、実は絶滅の速度は落ちていません。そういう危機感が大きいのだと思います。

 

川嶋:そもそも人間が認識している生き物の数のなかで何%が減ったとか言っているんだけど、人間が認識できていない生き物も地球にはまだたくさんいると言われています。そういう多様な生物がいることが、地球の生態系のバランスをうまくつくっているということですよね。

 

森本:発見されていない生物というのは、土のなかにもたくさんいます。たとえば、数年前にノーベル医学生理学賞を授賞された大村智教授は、日本のゴルフ場の土を採取して、そこで新しい細菌を見つけ出して治療薬を作りました。それくらいいろいろな恵みを得ている。

 人間の身体そのものが生物多様性でできているようなものなのですが、そういったことが十分に認識されていないのだと思います。さっきニコルさんがおっしゃったような「いただきます」というような、恵みの感覚が抜けてきているのではないでしょうか。

 

 ニコル:我々の小さなアファンの森からも新種を2つ見つけたんです。アブラムシとクモです。小さな森をちょっと調査したら新種がでる。日本はすごいんですよ。

 

 

●アースデイ東京は「エブリバディ・ウェルカム」

川嶋:ニコルさんはさっき、反対運動は好きじゃなくて、こうすればいいんじゃないと提案するということでした。問題のありかを気づいていない人に知らせるのことももちろん大事だけど、「じゃあ、どうしたらいいの?」という問いが次にでてきますよね。アースデイ東京には、こういう代案を提示していくような動きが最初からあったんですか?

 

ニコル:アースデイのスタッフと話をしていても、「エブリバディ・ウェルカム」なんですよ。みんなの意見を聞きましょう、楽しくしようよ、と。そうじゃないと人は集まらない。もちろん楽しいだけじゃないですよ。

 たとえば、僕は個人的にずっと日本の捕鯨を弁護していたので、いろいろな団体から敵だとされてきました。アースデイに来ているある環境団体とも、捕鯨のことでは意見が合わない。だけど、「僕はこういう意見で、ここは君とは違うけど、ここは同じだろう?」と話し合ったんです。友達と必ずしも意見がまったく同じじゃなくてもいい。友情には議論があってもいい。そうやってアースデイ東京で仲良くなりました。

 

 

川嶋:素晴らしいですね。アースデイというのは市民参加の場。もちろん企業だって市民だけど、みんなで作り上げていく場なんです。「エブリバディ・ウェルカム」というのは、そういう場所ですよってことですね。

 ちょっと歴史のおさらいになりますけど、アースデイは1970年にアメリカで始まりました。再来年が50年目になります。日本では、この年11月に「公害国会」の通称で知られる臨時国会が開かれて、各地の公害問題が議論されたときでしたね。

 

森本:そうです。それまでに大気汚染や水質汚濁がひどくて、たくさんの人が喘息になったり、水俣病のような被害がでたりしました。それが段々、みんなの怒りになっていった。この公害国会で、水質汚濁防止法とか、いろいろな法律が作られました。

 

川嶋:そして、翌年に環境庁(現・環境省)ができます。それから、いろいろ動きがあったようですが、日本でアースデイが始まったのは、1990年だと言われています。1992年には、リオサミットと呼ばれる「環境と開発に関する国際連合会議」があって、このときにカナダから来たセヴァン=スズキによる伝説的なスピーチが広がりました。

 1993年には日本で環境基本法ができて、市民の人たちによる活動も応援しようと「地球環境基金」が創設されています。そして1996年10月に青山の国連大学横に「地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)」ができるのですが、まさに森本さんはこの準備をされていたんですよね。

 

 

森本:はい。地球環境基金の法律をつくる仕事と、それから地球環境パートナーシッププラザというのを国連大学といっしょにつくる仕事をしていました。

 

川嶋:そして1998年にNPO法ができて、2001年に代々木公園でのアースデイ東京が始まったという流れです。

 さて、今年のアースデイ東京では、SDGsがテーマになっています。SDGsとは「持続可能な開発目標」といって、17のゴールと169のターゲットがあって、国連加盟国が2030年までに達成を目指しています。環境省ではSDGsについてはどうなのでしょうか?

 

森本:先ほどの森里川海ともつながるのですが、環境省のこれからの取り組みのベースにしていきたいと思っています。SDGsの取り組みというのは、すごくたくさんあるんですけど、バラバラにやるんじゃなくて、つなげていく必要があると思っています。とくに環境省の仕事は、社会のいちばん根っこになる自然資本のところなので、必死になってやりたい。とくに温暖化は非常に大きな課題になっていくと思っています。

  温暖化の議論をするときに、たとえば氷山が解けていきますとか、南太平洋の島が海面上昇で沈みますとか、どこか遠い場所での話だと思われることが多いんですよね。でも、日本でも影響は起きています。たとえば温度が上がったことで、九州では米が育てにくくなっているというようなことがある。デング熱など熱帯性の病気が日本に上陸するとか、台風が強力になってきているとかもそうです。そういう危機的な状況のなかで、自然資本を守ることが大事だということです。

 

 

●多様性には可能性がある

川嶋:本当にそうですね。そろそろ時間が来てしまいましたので、最後にお二人からひと言ずつお願いできますでしょうか。

 

森本:いろいろな思いがありますが、これからどう若い人たちにバトンタッチしていくのかが大きな課題だと思っています。

 今日、アースデイ東京に来てみてびっくりしたのですが、前よりも元気があって多様性を感じました。「コトの消費」とか言いますけれど、いまは物をたくさん消費するのではなく、意味のあることをやりたいという世の中の動きがあります。アースデイ東京のような取り組みは、こうした動きとシンクロするものではないでしょうか。こうした活動を応援できるような仕事をしていきたいと思っています。

 

ニコル:「多様性には可能性がある」といつも学生に言っています。日本の多様性を考えてほしい。北に流氷があって、南にサンゴ礁がある島国はほかにありません。日本では縄文時代から少なくとも千三百種類の木があった。森林面積は67%もある。本当に日本の可能性はすごいんです。でも、目覚めないとダメ。自然を放置することと保護は違うんです。

 日本の森、川、海には、汗と愛情と知恵が必要です。何をすればいいのかわからなくても。わかる人がいるから聞けばいい。日本の可能性はすばらしい。多様性がもともとあるから。我々がこの国を愛したら、アジアのエデンの園になれる。でも、そのためには愛情と汗と知恵、そして勇気が必要です。

 

川嶋:どうもありがとうございました。