「おカネ」をソーシャルデザインする!? アースデイ東京Open Meeting vol.10レポート(2)

3月14日(木)、渋谷LOFT9で「アースデイ東京Open Meeting vol.10」が行われました。「Open Meeting」は、毎年4月に代々木公園で開催されるイベント「アースデイ東京」当日に向けて、さまざまな社会問題を学び、みなさんと一緒に解決のためのアイデアやアクションを考えて行動していこうという取り組み。今回のテーマは「Good Design Money〜SDG時代。おカネの未来をデザインする〜」です。

私たちの暮らしに大きくかかわる「おカネ」。持続可能な社会について考えるとき、そこには新しい「おカネ」の価値や役割があるかもしれません。すでに「おカネ」から社会を変えるチャレンジが世界中で起きています。地域通貨から仮想通貨まで、2つのトークセッションを通じて各分野のゲストの方たちと一緒におカネの未来を考えます。「セッション1」の内容はこちらから。

※この記事は当日行われたトークセッションの一部に加筆修正したものです。

(主催:アースデイ東京2019実行委員会/共催:特定非営利活動法人 アースデイマネー・アソシエーション)


トークセッション2

【ゲスト】

・西部忠さん(グッドマネーラボ代表理事/専修大学経済学部 教授)

 http://goodmoneylab.org/

・矢島進二さん(公益財団法人日本デザイン振興会 事業部 部長)

 https://www.jidp.or.jp/

・池田正昭さん(特定非営利活動法人 アースデイマネー・アソシエーション)

 http://www.earthdaymoney.org/

【司会・進行】

・河村和紀、松尾沙織(アースデイ東京)


 

「グッドマネー」と「バッドマネー」

河村:それでは「セッション2」に入りたいと思います。まずはみなさんの自己紹介をお願いします。

 

西部:専修大学経済学部の西部忠です。2年前までは北海道大学に長くいまして地域通貨の研究や実践をしていました。昨年11月に池田正昭さんにもご協力いただきながら「グッドマネーラボ」(一般社団法人専修大学デジタル-コミュニティ通貨コンソーシアムラボラトリー)を立ち上げました。このラボの研究員には、セッション1のゲストである河崎純真さんも入っています。

グッドマネーラボ代表理事/専修大学経済学部教授 西部忠さん

 

我々が普段使っている法定通貨、これを私は「バッドマネー」だと考えております。これをやっつけると言うことは簡単にはできませんが、違う世界を覗き見られるものを作る方法に地域通貨があります。この地域通貨というものが、おそらく国家のお金から自由になって自分たちでお金を作るというものの先駆けではないでしょうか。さらに、この10年の間に仮想通貨も出てきました。

仮想通貨と地域通貨には、それぞれいいところもあれば悪いところもあります。では、両者の長所を組み合わせるような「グッドマネー」ができないか。そういう試みはすでに世の中に多くあって、市民や金融機関、企業、自治体などが取り組んでいます。そうした動きの調査分析、社会制度化、情報共有などの場を作っていきたいと思って、グッドマネーラボを作りました。

地域通貨というものを考える上で重要なポイントですが、私は地域通貨というのはひとつのメディアだと考えています。ラボの活動は「メディアデザイン」と「コミュニティドック」の二つが軸になっていますが、これについてはのちほど説明できればと思っています。

 

池田:もう少し背景的な部分をおさらいしておきたいのですが、僕たちは似たような年代の3人で20年ぐらいつながりがあります。僕が西部さんのことを知ったのは1999年。これは、日本における地域通貨ブームが起きた年なんです。何か変わらなきゃ、変えなきゃみたいな人々の潜在意識が高まってきたところに、地域通貨というものがいきなりボーンと来たんですね。

その「ボーン」が僕の理解では二つあって、NHKスペシャルで「エンデの遺言―根源からお金を問う―」という番組がありました。『モモ』の作家ミヒャエル・エンデです。NHKのスタッフが「これから世界はどうなるのですか?」と聞いたら、エンデが「地域通貨の時代が来る」と答えたことから、エンデに導かれるまま世界中のあちこちの地域通貨の事例を取材して1本の番組にしたものです。あの番組を観て、「自分も地域通貨やんなきゃ」と思った人がたくさんいただろうと思います。もうひとつが西部さんです。

特定非営利活動法人 アースデイマネー・アソシエーション 池田正昭さん

 

僕は、西部さんが1999年に文芸誌『批評空間』に書かれた論文「〈地域〉通貨LETS―貨幣・信用を超えるメディア―」に大変衝撃を受けました。セッション1でも資本主義をどうするのかという熱い議論がされていましたが、僕らも当時は「何かないの?」と思っていました。でも、具体的な処方箋がないから祈るしかない、みたいな状態だった。そんなところに、やろうと思えばできるという理論と実践を西部さんの論文では説明されていました。

当時は雑誌編集の仕事をしていたので、すぐ北海道に飛んで西部さんに話を聞いて、地域通貨を特集する雑誌を作ったのが1999年です。そこから、うっかり地域通貨の実践者になり、うっかりアースデイ東京にかかわることになり、うっかりアースデイマネーという地域通貨を作るに至りました。しかし、その後、地域通貨にはつまずいています。

 

矢島:私はデザインのプロモーションという不思議な仕事を長年やっています。デザインという視点で世の中をウォッチする仕事、なのかなと思います。「グッドデザイン賞」というデザインアワードの事務局が仕事のメインです。

雑誌『自遊人』の2019年2月号は「未来を変える『ソーシャルデザイン』」という特集なのですが、ここに平成のソーシャルデザインがどう生まれて、どういう活動が起きてきたのかについて寄稿させていただき、年表も作りました。なぜいま再び地域通貨なのかということも主観ながらまとめています。

公益財団法人日本デザイン振興会 事業部 部長 矢島進二さん

 

河村セッション1では、いま世界中で起きている仮想通貨やブロックチェーンなどによる新しいお金の動きの話がありましたが、日本国内でも自分たちで地域通貨をつくってきた歴史があります。今日のゲストの皆さんは、20年ほど前からお金についての研究や実践をされてきたと思うのですが、現在に至るまでにどんな動きがあったのでしょうか。

 

「言葉」と「お金」の融合が起きている

西部:まずは、私自身がお金をどういう風に見ているかということをお話しさせてください。私の専門は進化経済学ですので、古いところからざっと話をします。「サルとヒトの違いって何?」というところで、大きな脳や道具を持つとか、二足歩行をするとか、パンツを履いたサルとかいろいろな議論がありますが、私自身はメディアだという風に総括しています。

人間同士を繋いで社会をつくるのに必要なモノやコト。端的に言えば、それは言葉とお金(言語と貨幣)ということなんですね。メディアというのは媒介物のことで、雑誌とか新聞もメディアといいますが、言葉、そしてお金もメディアです。

いま地域通貨の中で起こっているのは、言葉とお金の融合だと捉えています。単なるお金は無味乾燥で冷たいものですが、地域通貨の中には、地域の特徴、掲げているスローガンなど、いろいろな言葉が入ってきています。仮想通貨の方にも同じようなことが起きていると見ています。

もうひとつ、資本主義も私のテーマですが、1980年代以降のグローバル資本主義とは一体なんだろうということを考えないと、何のために地域通貨をやっているのかわからなくなってしまいます。ただみんなでいいことしよう、という形で始めても、実際にはなかなか続かないんですよ。

 

これはカール・ポランニーという経済学者が考えたものですが、経済が成り立つには3つの原理があります。一番目は市場、二番目は国家、三番目はコミュニティです。それぞれ違う原理です。市場は貨幣による等価交換をする。国家は税金を集めて社会保障や開発で再分配します。コミュニティは助け合いやペイフォワードです。

この3つがある中で、1980年代以降続くグローバル資本主義の流れによって市場がどんどん大きくなっていって、コミュニティを壊したり、国家を侵食したりしています。コミュニティや国家が小さくなった結果、たとえば家族の中でのさまざまな問題などが生まれてきました。離婚や育児放棄みたいなこと、国家の予算がなくなって社会保障が十分にできなくなってきているのも同じような問題です。

こういう状況を踏まえた上で、経済の仕組みで足りないものを補ったり、新しいものを代替的に作っていったりするというのが、今でてきている地域通貨であったり、仮想通貨というものではないかと思っています。

 

20年前、なぜ地域通貨につまずいたのか

河村:なるほど。経済が成長していくなかで、家族のあり方がどんどん変わっていった状況はすごく実感するものがあります。そういうなかで、地域通貨というアプローチを試そうという方が増えていったと思うのですが、実際に池田さんが地域通貨に取り組まれたなかで感じたことを教えてもらえますか。

進行役の河村和紀さん

 

池田:最初に「地域通貨につまずいた」と言いましたが、1999年頃から一気にネットコミュニティも広がっていきました。そこにもいろいろな期待を持って、「僕たちの、僕たちによる、僕たち自身のお金を作ろう」と盛り上がったんです。

でも、「僕たち」の根拠って何?と考えると分からなくなってしまう。なんとなく感じいいね、気が合うね、というだけでは脆弱で、ちょっとしたことで崩れてしまうし、すぐに分散してしまう。そういう意味で「コミュニティ」という部分でつまずいたのが、僕の最初の失敗でした。

3・11以降の世代の人たちには「コミュニティ」に対する不信感はないのではないかと思います。東北で被災者たちとともにした「コミュニティ」という絆の強さは、本当にすごいものです。でも、3・11が起きたとき、僕らの世代はもはや体力がなくて、すぐには被災地に行けなかった。そこに入り込めずに取り残された僕たち、みたいな……。

でも、昔とった杵柄みたいなものを持ちつつ、若い人たちがもう一回コミュニティを作り直そうとしているところに、後から乗っかれるところもあるんじゃないかなと思っています。技術的にも仮想通貨というものがどんどん出来ているし、もう一度、この2つの世代が融合することで新しいことが生まれようとしているのかもしれない。

 

矢島:いまは普通に「コミュニティ」という言葉をみんなが使っていますが、20年前には少なくとも日本にはなかったですよね。それが生まれたのは阪神淡路の震災以降のことだと思います。そのことと多分、地域通貨やコミュニティの問題はリンクしているような気がします。

 

テクノロジーの進化で変わる「コミュニティ」

西部:僕らが地域通貨をやり始めた時には、地域には共同体という言葉がありましたが、我々はその言葉を避けたかったんです。農村共同体というか、農業の中で縛られているところから脱出したかった。共同体がコミュニティという言葉になった時に何が変わったのかというと、出入りが自由になって、ひとつのコミュニティだけに属さなくても、多重のコミュニティに所属していくことができた。それは、おそらくSNSが出てきてからだと思います。

ほとんどがテクノロジーに結びついていると、僕は思っているんですね。コミュニティという言葉の意味が変わったのもスマホによるものだと思うし、地域通貨が再興して盛り上がっているのも、やはりデジタル化とかスマホが使えるということと関係があると思います。

もうひとつ、新しいものが出てきたとすると、「コミュニティ・オブ・インタレスト」という、同じ趣味や関心があって集まっているコミュニティで、コミュニティという意味はどんどんシフトしているんだろうなと感じます。

 

河村:ここ数年の間にコミュニティというものがいろいろなエリア、単位で使われるようになってきています。興味、趣味という単位がオンラインでコミュニティ化していくというところで、ある種の新しいつながりが生まれてきたわけですよね。いまの、そうした感覚でお金をどうデザインしていくと面白くなっていくのでしょうか。矢島さんのかかわっているグッドデザイン賞を、もしお金がとることになったらすごいなと思うのですが……。

 

矢島:それこそ「お金をデザインする」ということに初めて気がついたのは、池田さんの雑誌からでした。お金がデザインの対象になると考えていた人は、20年前はほとんどいなかったと思うんですよ。でも、お金を変えることで、経済の仕組みとか社会のありようが、ある意味変革できるということを示唆してくださった。そういうインパクトが、地域通貨にはあったと思います。

 

「お金はデザインでどうにでもなる」

池田:西部さんが1999年に書いた論文は、マイケル・リントンが生みの親である、地域通貨LETSについてだったのですが、彼が言った言葉で“Just a matter of design”というのがあって「かっこいいな!」と思った。要するに「お金はデザインでどうにでもなる」ということですよね。

その頃から、僕はコミュニティというものがよく分からなかったので、リントンに「コミュニティって何だと思う?」とも質問したんですが、「コミュニティというのは、コミュニティ・カレンシー(地域通貨)が流通しているところだ」と返ってきて、禅問答みたいでますます分からなくなりました(笑)。

でも結局、僕はコミュニティ・デザインが重要だなと強く思うようになっていったんですね。コミュニティというものがしっかりあれば、いまならブロックチェーンとか、いろいろな技術や仕組みがあるわけだから、それを使えばいい。お金をデザインする前に、コミュニティのデザインが大事だということを、あらためて言いたいなと思います。

 

矢島:毎年グッドデザイン賞では大賞を決めているのですが、2018年のグッドデザイン大賞は「NPO法人おてらおやつクラブ」の活動が選ばれました。この活動は、サラリーマンを辞めて小さなお寺を継いだ一人の若い住職が始めたものですが、大阪で母子が餓死した事件がきっかけだったそうです。

宗教家として何かできないかというところから、お寺にあるお供え物を分配できないかと考えて、子どもをサポートする支援団体を通じて経済的に困難な家庭に届ける仕組みを作ったんです。2018年の段階では1000ものお寺とのネットワークができていました。こうした活動や仕組みが「デザイン」として評価されたのです。こうした動きのなかで、お金のあり方もやはり確実に変わってくるだろうと思います。

 

地域通貨そのものがハイブリッドな存在

西部:これまではデザインというと工業生産物のような車や電化製品などの人工物が対象だったのが、社会制度とかにシフトしていっているというのは、時代の流れなのかなと思いますね。

いま、仮想通貨と地域通貨のハイブリッドが考えられていますが、そもそも地域通貨そのものがハイブリッドです。地域通貨には、地域経済を活性化する貨幣の側面と、地域のコミュニティを活性化する言語的・文化的な2つの側面がある。そのハイブリッド率が地域経済の方に偏っているのが、商工会などが主体になってやっているもの。市民団体がやっているような地域通貨には、ボランティアだけをやりましょうというものもあって、それぞれにうまくいかない部分があります。

では、どういう混合率でやったらいいのか、地域通貨を回すためにはどうすればいいのか、それを考えて管理運営する側は非常に大変なんですよ。最初は気持ちが高ぶっていても、2年、3年と続けるうちにダメになっていきます。

それでも、僕が知っているだけで20年ぐらい続いている地域通貨が国内に10種類ぐらいあります。つい先日も長く続いていた地域通貨をやめると聞いたのでびっくりして連絡したら、別の人が引き継いでデジタル地域通貨化するということでした。そういうことが起きつつあるわけです。

西部さんの著書『地域通貨によるコミュニティ・ドック』(専修大学出版局)

 

今日は詳しく紹介できませんが、飛騨信用組合の「さるぼぼコイン」(岐阜県高山市・飛騨市・白川村)、君津信用組合・木更津市・木更津商工会議所が連携した「アクアコイン」(千葉県木更津市)というQRコード決済できるタイプの電子地域通貨などもあって、お金のデザインというのはこれから活性化していくんだろうと思います。

人工物と違ってメディアの場合は、作った段階ではそれがいいかどうかわかりません。みんなで使って、コミュニティで回してみて、うまくいかなければ変えていく必要がありますし、みんなが理解して初めて意味を持つものです。

本当にどれがいいのかを調べたり探したりして、みんなでグッドマネーを探していく「メディアデザイン」がある一方で、コミュニティをサポートしたり、お金の流れやパフォーマンスを診断する「コミュニティドック」も必要になる。人間ドックを受けて問題があれば食や生活習慣を変えるのと同じように、コミュニティも自省して変えていく必要があると思います。

 

河村:グッドマネーラボが行っているコミュニティドックのような助けがあることで、地域通貨が継続するだけでなく、その地域がより醸成していく可能性があるということですね。

まだまだお伺いしたいことは尽きないのですが、多くの人がチャレンジしている新しいコミュニティのあり方、そしてお金のあり方の事例については、これからもアースデイ東京でどんどん発信していきたいと思います。みなさん、今日はどうもありがとうございました。

 

セッション1・2を通じて、さまざまな角度から「おカネ」について話し合った Open Meeting。SDGs時代、持続可能な社会を考えたとき、お金のあり方はコミュニティの意識を左右する大きな鍵となってきそうです。

アースデイ東京2019でも、お金の未来を考える試みとして、QRコード決済が体験できるエリアを設置予定です。どんなお金がこれからの「グッドマネー」なのでしょうか? ちょっと難しいテーマかもしれませんが、ぜひ一緒に考えていきましょう。

(Text:中村未絵)

 

 

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